戦地からの手紙〜十七戦地インタビュー〜 2/3
十七戦地制作部です。
西東みどりさんによる十七戦地インタビュー第2回目です。
今回は柳井戯曲の作風の変化やふたりの役割分担について語っています。
***
#6『眠る羊』稽古場の柳井
【ファンタジーと現実】
─私は「獣のための倫理学」(2013年2月)と「花と魚」(2013年9月)しか拝見していないんですけど、
あれ、北川さんには「当て書き」されてます?
柳井 「花と魚」は当ててますね。
「獣…」は何となくこれかな、みたいな程度でしたかね。
黙ってると、いろんなものを背負っているように見えるんですよ。
─そうなんですか、北川さん?
北川 いや、何も考えてないです(笑)
柳井 恐るべきことに何も考えてないんです(笑)
何かね、考えてるように見えるんですよ。
それがね、こちらの想像力を委ねさせてくれていいなと。
僕は結構“ことばの人”なので、言葉じゃない部分を補完してくれるという気がします。
─ああ、確かに余程思う所あって黙ってるんだろうなと思わせるところがありますよね
いくらでも間が持つタイプっていうか…
柳井 そう、そうなんですよ。
─実はあまり考えてないんですか…
柳井 そう、お腹すいたなとか考えてるんです。
北川 そういうのだけでもないです(笑)
─北川さんから見て柳井さんの書く作品というのはいかがですか?
北川 そうですね、面白いとはミルク寺の頃から思っていたんで
だから一緒にやりたいなとは思ったんですけど…。
─ミルク寺のファンタジーってどんな感じですか、荒唐無稽な?かわいい?
柳井 う~んと、例えば彼が最後に出た作品は、
「獣…」と同じ「津山三十人殺し」(※注1)をモチーフにしてるんですけど
戦後間もない岡山県と広島県の県境の山奥の村が舞台なんですね。
レモン農家の村で、女の人しかいない、男は皆戦争にとられてる。
レモンは梶井基次郎の「檸檬」の理屈で、実はレモン型の爆弾。
元々レモン畑で潤っていた農村が、戦後はレモン型爆弾を作る
兵器工場になったという話なんですね。
最後の方は巨大なレモンが出て来て、それに村中の色、色彩を吸収させて
1個の原子爆弾が出来る、その原子爆弾の開発を止めるために
村に来た二人が村人を殺す…っていう話。
─結構、根はダークな…
柳井 根はダークですね。
空想組曲さんみたいなダークファンタジーかもしれませんね。
─北川さんはそういうところがいいなと思ったんですか?
北川 うーん、面白いとは思ったんですけど、万人受けしなさそうだなと(笑)
この前のワークショップにたくさん人が来てくれましたけど
十七戦地を始めた頃はこんな風になると思ってなくて…。
「花と魚」も初演が割と評判が良かったんですけど、ちょっとそれもびっくりした。
あ、皆これを面白いと思うんだ、って。
─それは何か世の中で起こる現実がどこかでリンクするところがあるから
反応も良かったりしたんでしょうか
柳井 そうですね、3.11の震災と原発事故というものが起こって
皆が答えを求めてる中で、たまたまひとつ方向性として
僕はこういう風に考えます、っていうのが引っかかったのかな。
【獣のための倫理学】
─「獣のための倫理学」でファンタジー色が急激に薄まった理由は何でしょうか?
柳井 単純に劇場がLIFTというギャラリーだったというのが大きいと思います。
ファンタジーやってもお客さんが本当とは思えない。
あれもやっぱり30年前に時間が飛ぶという嘘を
ギャラリーで成立させる方法は何か、という時にロールプレイメソッドを取ったと。
今度の「眠る羊」(2014年2月)もファンタジー色はほとんどないんですけど
その理由も劇場が同じLIFTというギャラリーだからというのが大きいと思います。
─ハコで決めるという…
柳井 はい、ハコで決める(笑)
逆に王子小劇場で「獣…」をやったらつまんないんじゃないかと思いますね。
─あ、そうかもしれませんね
大学の研究室でロールプレイを見ている感じの臨場感がありました
柳井 あ、それは良かった。
─そういう作品の傾向の変化というのは、演じる側としてはいかがですか?
北川 うーん、難しくなったというのはありますね。
単純に台詞が難しくなったということと、あとテンポをすごく言われます。
─テンポをもっと上げろと?
北川 そうですね、僕の頭が遅いっていうこともあるんですけど(笑)
技術的に難しくなってきました。
─私はあの玲子役の関根信一さんにとても強烈な印象を受けたんですが…
柳井 あれは関根さんに出てもらおうっていう話になって、
関根さんでどんな話ができるかなあと。
関根さんが出てくれるならこういう話にしよう、出てくれなかったらどうしようって(笑)
北川 出てくれないと困るって言ってましたね(笑)
─向井という人物が大変魅力的に書かれていますね
柳井 僕の理想の北川君ですね、こうあって欲しいという。
そうじゃないことを知ってるんで(笑)
実際の北川君はもっと人間臭い人です(笑)
玲子や向井って、優しさと強さが両立してるんですね。
信念とか、何かを守る為に傷つくことを怖れない、そんな強い人ってめったにいない。
そういう意味で“人間臭い”、迷うし悩むし…。
─なるほど…北川さんから見た柳井さんはどういう方ですか?
北川 僕は二十歳でミルク寺に参加したんですけど、
その頃柳井は教えてくれる立場でいわば師匠みたいな感じでしたね。
結構厳しいことも言われましたし。
今は…“締め切りを守らない作家”ですかね(笑)
柳井 あー、そうなんです、それしか出てこないだろうなと思ってました(笑)
“守らない”んじゃないの、“守れない”の。
─あはは…、じゃあ今日書き上げて今日本番みたいな(笑)
柳井 あ、そんな感じです。
─え~っ!
北川 「獣…」は稽古最終日の朝に出来ました。
柳井 しかも、前の日に出来た部分を5~6ページ書き直して
やっぱりこっち!って…。
でもみんな大したもんで、その場で覚えちゃうんだよね。
そんなにおおっぴらにしていい話でもないんですけど(笑)
【役割分担】
─お二人の役割分担は自然に決まったんでしょうか?
北川 僕が「劇団員にしてください」って言ってるんで柳井が主宰だと思ってました。
最初は(笑)
柳井 そもそもはですね、僕が脚本家で忙しくなった時に
ちゃんと主宰が飲み会に出た方がいいってタッキーが言ったんじゃなかったっけ?
北川 ああ…これ人に言われたの。
分けた方が上手くいく劇団が最近多いよ、みたいに。
別に主催やりたかったわけじゃなくて、全然やってくださいっていう感じで。
柳井 それで、僕が(藤村)恭子さんにタッキーがこう言ってるって相談に行った時に
あ、いいんじゃないのっていうことになったんだね。
藤村(制作) 役割を作りたいけどどういう呼び方がいいかって言うから
座長っていう名前がいいんじゃないって言ったの。
─今、具体的にはどんな風に分担しているんですか?
柳井 僕が稽古と演出だけをやって、あとは全部お任せ。
北川 いえいえ、僕何もしてないんです。
柳井 基本的に対外的なことは全部お願いしています。
オファーとか、インタビューとか、あとテーマとかは僕が相談に行って
「いいんじゃない」とか「はい」とか(笑)
─最初に今度こういうのをやりたいという話は柳井さんから提案するんですか?
北川 「獣…」の時は「今度こういう“ロールプレイメソッド”っていうのをやりたい」って
柳井が言って来たんですね。
でも大体そういうテーマとか話しても、次に会うと全然違うこと言うんで…(笑)
その時々に自分の興味あることを言ってくるんですが、
前に話してた事とは全然関係なくなってるなっていうことが多いですね。
柳井 そういうことにしておこう(笑)
<続く>
※注1:「津山三十人殺し」
1938年(昭和13年)5月21日未明に現・岡山県津山市の集落で発生した大量殺人事件。
2時間足らずの間に30名が死亡、3名が重軽傷を負った。犯人は犯行後に自殺。
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