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戦地からの手紙〜十七戦地インタビュー〜 3/3

十七戦地制作部です。
ライター・西東みどりさんによる全3回の十七戦地インタビュー、
最後は
***
【制作のプロセス】
─詳細な制作過程をブログで公開していらっしゃいますよね
付箋をつけて、非常に緻密な…

柳井  そうですね。
─あの方法はミルク寺の頃からですか?
柳井  ミルク寺の途中からだと思います。
解散の1本前の公演の時、本当に行き詰っちゃって台本書けないっていう時に
脚本の書き方とかまとめて読んだんですね。
で、見よう見まねで真似っこして、あ、書けるって思った。
解散してからシナリオ学校へ通うようになって
そこで勉強した事が自分に合ってるって思ったんですね。
シナリオの特別講義でいろんな先生が話をして手の内をちょいちょい見せてくれる。
表面上は違うけど、根っこは同じだなというのがあって
その中で自分に合ったやり方みたいなのを今やってる感じですね。
一見緻密に見えるんですけど、“緻密期”っていうのがあって(笑)
─え?“ちみつき”?


柳井  緻密に設計図を引いてやっていって、それがどんどん薄れていくと
やっと書ける…(笑)
例えば今、“緻密期”を越えて“反緻密期”なんですけど…(笑)
─“反緻密期”!(笑) 緻密に積み上げたものを崩すんですか?
柳井  崩すっていうか、やってることは同じなんですけど身体に落ちて来るから…。
これはこないだ書いた短編なんですけど
(ノートを取り出す、ところどころに付箋が貼られている)
─すごい!受験生みたい
柳井  ははは…。
これが緻密期なんですけど、このメモがどんどん雑になって行って反緻密期になる。
もう読めなくて困るくらい。
─その反緻密期にやる作業というのはどんなことですか?
柳井  緻密に積み上げる時は作家側の目線で積み上げる、作家の都合で話を作ってる。
AさんとBさんがいて、Aさんが怒られて、次Bさんが怒られて
もう一回Aさんが怒られる。
反緻密期になるとAさんBさんの考えやキャラクターができて来るので
Bさんはここで怒られないな、彼はここで毅然と対応する、
彼のプライドがあるからこうだろう、
そうなるとAさんの受け答えも恫喝ではなくなって依頼になる…
そういうやりとりが反緻密期なんです。
─論理的なものじゃなくて、キャラが自発的に動き出す感じ?
柳井  そういうことです、そういうことです。
でも緻密期にやったある程度の筋はあるから、
“この人をこっちに動かすにはどういうことが必要になるだろう?”というのを
付箋とかに貼っておいて忘れないようにしておくんですけど。
この付箋が割とどこか行っちゃうんですよ。
そういうことをくり返してるから台本遅くなっちゃうんです。
藤村  昔はちゃんと書いて来たんですよね。
柳井  そう、全部バーンと。書きなおしてもせいぜい終わりの3ページくらい。
藤村  間に合わなかった時は“箱庭感”があったよね。
柳井  あ、そうそう、箱庭感、登場人物をこう動かしてああ動かして…っていう。
藤村  作家の都合だけで書いてたんじゃないかな。
柳井  そうそう、平気で全員死んじゃうような芝居も書いてたし。
─作品の構想はどんなところから始まるんですか?
柳井  ひとつ大きな嘘を作るんですよ。
「魚に足が生えて陸に上がり、人は魚になるというサイクルが存在する」(#1「花と魚」)とか
「飛行機工場の裏にUFOが落ちて来る」(#2「百年の雪」)とか
「遺伝子組み換えスーパー作物を創り出す神様の骨がある」(#3「艶やかな骨」)とか
「わずか90分間で30年間解けなかった謎が解ける」(#4「獣のための倫理学」)とか。
今度の「眠る羊」だったら「国防一族にスキャンダルが一気に噴出する」とか。
そういう妄想を作るんです。
その嘘をお客さんに説得力を持って届けられたらどうにかなる、みたいな。
その嘘を初めに決めるんです。
【座長決裁】
─制作サイドから見てお二人のコンビネーションはいかがですか?
藤村  なんか、いいと思いますね。
座長が、ちゃんと座長なんです。
作家がかなりルーズなところを座長がちゃんと締めてくれるので(笑)
B型的なところをビシッと締める、という。
今2人役者がいるんですが、俳優の柳澤有毅が反対意見を述べ…
柳井  そうだね。
藤村  女優の藤原薫が「りょうしん」、良い心と書いて「良心」
みたいなバランスがいいですね。
柳井  そうだね。
藤村  作家が割と無茶を言うので。
僕が無謀なことを言う、反対意見が出る、「良心」がどうしましょうか、って言う、
で、座長が「よし!」って言うみたいな。

─やっぱり最後に大事なところは座長が…

柳井  そうですね、座長決裁が下りるかどうかって言うのは実は結構微妙なところで。
藤村  その辺のバランスも、最初は多分柳井の主催に若い役者という感じでしたけど
意外と「しっかりしたお兄ちゃん」って感じで
若い役者に対しても、年上の客演さんに対しても。
柳井  せっかくお兄ちゃん気質を持っているのに、最年少で。
─えっ、本当?
北川  はい、一番下です。
藤原が同い年なんですけど、あと3人はみんな上です。
─2012年に柳澤さんと藤原さんが劇団員になられたんですね
北川  そうですね、役者1人はちょっと辛いなと…(笑)
増えてからは気が楽になりました。
【これからの十七戦地】
─これからやってみたいテーマなどありますか?
柳井  最近料理を始めたんで…(笑)
料理、食事が出て来るものが書きたいです。
北川  「ごちそうさん」みたいな?
柳井  そうです、でもメインテーマではなく、ちょっと出て来るくらいで。
実はずっと藤村から言われてて、
「柳井くん、作家やるんだったら料理作れたほうがいいよ」って。
藤村  向田邦子に心酔してたから。
柳井  ジャンルに興味があるんですよ、僕は。
「津山三十人殺し」ものとか、「国防」ものとか、「犬神家」ものとか
「向田邦子」ものとか、そういうジャンルに興味があるので
「食」ものも、いつか書けたらいいなと思ってますけど。
─北川さんはいかがですか?
こういうの書いてくれないかな、こういうのやってみたいなとか…

北川  それがあんまりないんです(笑)
柳井  1度だけ「タイムマシン」ものを書いてくれってお願いされたことがあって
やだって言ったの。
─「やだ」!(笑)
北川  SF的な大きな嘘を一つ入れるっていうか、タイムトラベルもの好きなんですよ。
でもタイムマシンものは却下されて(笑)
柳井  理由は「リアリティがない」(笑)
─あはは…魚に足が生えるのはリアリティがあるのかという…
柳井  それはね、あるんです、僕の中ではあるんです。
タイムマシンは絶対あり得ない。
北川  UFOはあるのに…。
柳井  だってUFOは確率的にあり得るもの。
─あ、そうですか…
柳井  理屈を考えるわけです、その嘘を信じるためには。
で、タイムマシンだけはどう考えても矛盾が出て来て、その矛盾に耐えきれない。
タイムマシンは興味がわかない。
北川  こうなんですよ、興味がわかないと全く書かない。
─座長、この興味の方向性をコントロールするのが大変ですね
北川  いや、そうでもないです、締め切りだけです(笑)
─北川さん的に自分と全く違う役をやってみたいとは思いますか?
例えばおしゃべりとかチャラ男とか…

藤村  似合わない…(笑)
柳井  ちょっと痛々しいな(笑)
北川  そうなんですよ、そうなっちゃうんですよね。
なので、まあ、そんなにやりたいとは思っていません(笑)

─年明けからもう稽古ですか?

柳井  そうですね。
─脚本は間に合いそうでしょうか
柳井  間に合いますっ!間に合わせますっ!
公的に言ってしまった…。
北川  毎回言ってますから…(笑)
柳井  そこで諦めるから、僕もいいかな、って思っちゃうんだよ。
どうせ期待してないだろうから、じゃあいっか、ってなっちゃう。
─あまり追い詰めちゃいけないって思ってらっしゃるんですよね
北川  いや、追い詰めなくちゃいけないと思っています(笑)
─そうですか、では追い詰められて書くものに期待したいと思います(笑)
今日はどうもありがとうございました

北川・柳井・藤村  ありがとうございました!
***
●インタビューを終えて●
興味の対象が縦横無尽に知のフィールドを駆け巡る作・演出の柳井さん、
最年少ながら静かにその方向性が定まるのを待って最終決定を下す座長の北川さん、
お二人のバランスを中心で微調整しながら、スケジュールを管理する制作の藤村さん。
あの完成度の高い作品は絶妙なチームワークの結晶であったかと思わず納得。
結構詳細なあらすじを公開しながら、舞台が始まったとたんそんなものは吹き飛んで
全く予断を許さない展開にいつも惹き込まれてしまう。
このなかなかのエンターテイナーぶり、常に次回作が待ちどおしい劇団である。
(聞き手:西東 みどり)
西東みどり プロフィール
東京都在住。2007年よりフリーライターとして活動をスタート。
医療・福祉・介護関連のビデオ企画や台本、雑誌取材記事をはじめ
HP用企業経営者のインタビュー、地元FMラジオの取材レポート等を手がける。
2011年頃から趣味の小劇場系演劇に魅せられている。

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東京を拠点に活動する劇団、十七戦地です。

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